味悪そうに机の上から肱を脱すと、身を彼から除ける風に引いて、
「どうしたの、兄さん。」と訊ねた。
 いつもなら少し変ったことのある場合すぐ勘づく妹にしては、今夜は遅すぎた方だったが、それでも、早や気づかれたかと思い矢代は動悸が早く打った。
「先日の叔父さんの話ですがね。出しぬけに失礼ですが。」
 矢代は妹には云わず母に対ってそう云いかけると一寸黙った。母は「ふむ。」とかすかに云っただけで、じっと俯向いたまま澄んだ表情に変った。
「式はいつでも良いのですが、僕の結婚のことは、僕に任せていただけませんでしょうか。」
 矢代はこれだけ云ったとき、ふと後はもう云わずとも良いような気持ちがした。彼は織部の湯呑の碧い口を、つよく拭くように撫でている自分の指さきを見ながら、何か煮えるように熱くなった身の裡で溶け崩れてゆく別の悲しみを感じた。しかし、一切がこれで済んだ、そう思うだけでも彼はその後の母の答えをもう待っていなかった。
「あなたの好きな人なら、それで良いでしょう。」
 母は前からこんなときの答えを定めていたらしい低い声で云ってから、眼をぱちぱちさせ、まだそのままの表情で畳の上を瞶めていた。彼
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