新時代もいつの間にか古うなると云ったのも実は矢代のその汚点を黒黒と染めている一点に向けて云っても見たものにちがいないと思われた。元来から矢代は、自分に忠実であるという新時代の賞め言葉は嫌いだった。しかし、矢代の親戚のものらが誰も周囲に忠実で来たという美点の中で自分ひとりが自分に忠実に、自分の恋愛を押し貫いてゆこうとすることは、新時代の自己主義者のすることと見られても彼に弁明の言葉はない筈だった。よしたとい、それがむかしから変らぬ恋愛だから無理なしという理由は成り立ったところで、そこに一脈の不快さの残ることは認められた。やはり自分も自分の幸福を追い廻す考えで、ついに外国を渡っていたのかもしれぬ。――こう思うと矢代は、俄にこのときから笑いの去るのもまた覚えるのだった。
「僕はこれでも自分の仕事で、日本の地方という地方は残らず廻ってみたが、お蔭で自分の郷里というものの特質が、この年になってどうやら分って来たな。初めのうちは、姑息で因循なあの保守主義には溜らなかったが、いや、しかし、そういうたものでもないと思うようになったよ。どうもお国自慢になって、君には失礼だけれども、日本でむかしながらの気風を一番長持ちさせているのは、東北でも特に僕らの地方じゃないかと思うんだよ。そりゃ勿論、悪いものも持ってはいるがね。誠実質朴という点では、他のどこの国にも負けない頑固なものがあるよ。その代りに、一度悪事をすれば、後はどんなに良いことを山ほどしても、もう受けつけない。そこは君の郷里の九州地方とは違うんだよ。九州は、あそこは妙なところだ、いくら悪事をなそうとも過去を問わぬ。悪く云えば刹那主義だが、良く云えば濶達明朗というのかね。それだから大西郷なんて人が出たのだよ。僕は建築の仕事をしていてこう思うんだが、どうかね。君は外国へ行って来たから分るだろうが。」
と貞吉は少し前へ乗り出す風に椅子から動くと、まだ青年の活溌さで、さも楽しげにひとり続けた。
「日本に外国からの良い文明が落ち込んで来て、今のような日本が出来上ったというのは、島国だという所もあろうが、一つは君、日本人の誠実さを知った外国人の豪い人物たちが、何んとかしてこの国のために自分を役立てようと思ったからじゃないかと、僕は思うんだ。悪い人間に誰も自分の知識やいのちを与えてやろうとは思うもんじゃないからね。」
「それは僕もそう思います
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