出てゆくからな。何より家柄の判っているものの方が安全なものだ。」
叔父は矢代の意中を忖度したつもりで、結婚に気のりを見せぬ彼の胸中に針を打つのも忘れなかった。
この日も叔父の貞吉は矢代所持の株券の相場や切替の話をすませてから、彼の母と叔父たち共通の実家にあたる、滝川家のことに自然に話が落ちていった。母の実家の方は士族の土地持ちで、株の他に小作人や山林も地方としては相当多い動産不動産の実状だったから、矢代や今の貞吉の家とは異り、受け継いだ財産を維持するだけで地方特有の煩雑な用務が積っていた。そこへ、後継の娘の養子が新時代と自称する青年で、家の実権が自分に移れば、財産を社会のために解放すると妻に云いきかせて驚かせているということも、貞吉と矢代との間の話題になった。
「これで新時代というものは、いつでも有るものだが、自分が新しいつもりでも、いつの間にやら古うなってしまうものだな。僕らでもむかしは新時代だったよ。」
と貞吉叔父は笑った。頭髪の薄い円顔に小肥りな事業家肌のこの叔父にも、ひとむかし騒がれた鹿鳴館以来の開化文明の欧化思想に浸った形跡もあって、床には諭吉から直接に貰った独立自尊の軸物がよく懸っていた。貞吉などの民権自由の新時代が欧洲大戦の余波を受け大正の資本主義時代の膨脹期にさしかかって来たとき、それにつれて起った社会主義の騒然たる芽も伸び繁り、滝川家の養子らの頭もその声音の高さに嚥まれる時分となった。およそ親戚たちのどの家にもそれぞれに来るべき新時代の余波は何らかの形で及んでいたが、しかし、その底にはむかしから変らぬ自然の流れに似た太い情緒もまたともに流れていた。このような中で矢代は自分の親戚たちを見ていると、不思議とどの家の中の子女たちも、恋愛事件を起して家風の保った独特の静寂な情緒を乱したものは一人もいなかった。皆それぞれ誰も親の定めた嫁を貰い、その教えのままに嫁ぎ、そして何んの間違いもなく子女を育てて老年へと向っている。見わたして強いて異犯あるものと云えば、それは矢代ひとりらしかった。
「おや。」とそういう新鮮なおどろきで、突然矢代は自分と千鶴子との一点の異風に今さら振り返るのだった。実際このさきとも自分は親や親戚たちの誰の努力や奨めにも応じることなく、千鶴子との間をひとえに押し通してゆくことは定っていると矢代は思った。叔父の貞吉が滝川の養子のことを、
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