の位相幾何学の連続の問題と共通した難問の部分だとのことで、またこの解決はまだついていない、もっとも斬新な、数学界に於ける華形として登場して来た射影幾何の部門に属するため、矢代がその幣帛の研究方法をどこから得て来たのか、訊ねて来てくれるようとの槙三からの依頼だった。千鶴子はこんな難しい話を云いがたそうに矢代に話しているとき、
「一寸、そこのあなたたちのお話、聞き捨てにならないな、何んです。」
 と、今まで二人の話を聞いていなかった筈の男爵が、そう云って矢代の方に身を傾けよせて来た。がやがや話していた食卓の長い両側の列が、皆一斉に話をぴたりと停めると、千鶴子と矢代の方を振り向いた。槙三ら数学者たちといい、ここの外国帰りらといい矢代は、彼らの注目を受けるや、世界の全体が急にこちらを向き返って来たようで自然と緊張を覚え、ぼっと暖く光りのさしのぼって来るのを感じるのだった。
「あなたは帰ってくるなりお祭りの話なんかされるもんだから、つい僕も、いろいろ思いあたることが出来てきて、難しいことになったのですよ。」
 その場は矢代も平尾男爵にそう云ったまま笑った。
「何んだい君、今のその話は?」
 東野も千鶴子と矢代とのひそひそ話を、前から幾らか耳にしていたと見えて、そう訊ねた。しかし、矢代はそのときの東野のこちらを向いた眼が、実に静かな優しい色を泛べているので、男の眼もこんなに美しくなるものかと、暫くは見返しながら、
「いや別に、とり立てたことでもないのですよ。」と云って笑った。
「集合論のお話のようだったが、御幣が集合論と似てるんですって、そいつを一つ伺いたいな。」
 と、平尾男爵はまた二人の方へ乗り出す具合をやめなかった。
「ああ、あれか、あれはどうも。」
 由吉はもう弟の槙三から少しは聞いてあったものらしく、信用なりかねる話題を、むしろ矢代がさしひかえてくれるようにと思う表情で、ひとりフォークを動かした。
 矢代はそうでなくとも、もうこのことに関しては、今は話し出す興味が失せて来ていた。第一話はあまり突飛であったし、知的興味を覚えることではないばかりか、ここに集った人の心をかき乱す作用もしそうで、口もとに出かかろうとする声も、苦しく抑えにかかるのだった。
「僕は集合論なんて、よく知らないんですよ。ただね、いつか越後の山の湯へ行ったときに、由吉さんの弟さんと一緒だったのですが、
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