士道というよりむしろ古神道の精神の立派さじゃないかと思われるんですが、どうでしょうか。」
云いかねていたことも矢代はそう云ってしまうと、この夜の査問に対する自分の答えも、これで先ず出来たとほッとした。またそれは思いがけなく千鶴子への答えにもなっていたので、反省すべき部分を残していると思われても、公衆の前では今のところこれ以上はやむを得ないと思った。
「あなたの道徳論も、それでまア、やっと分りましたな。」
久木男爵は小首をかしげ眼鏡を脱した後で、客たちはみな遠方を見ている風な眼差のまま誰も黙り込んだ。しかし、遊部だけ一人何んとなく落ちつき悪そうに左右を見廻しているうち偶然にみち子と視線が会った。すると、急に照れた笑顔で、
「皆黙りこんでしまったなア。みっちゃん、その後丈夫かね。」とひょっこり訊ねた。
「ええ、お蔭さまで。あなたは?」と、みち子は意外に静かな声で懐しそうに肩を落し、そして伏眼でそっと遊部を見た。
「僕もまア、この通りですよ。」
「お痩せになったわね。」
「いったい、どっちも好きなくせに別れているとは、どういうことだ、え?」と突然由吉は二人の顔を見較べて訊ねた。
「誠実さがないからさ。」と遊部は軽く俯向いて一言いった。
「あってよ。」
みち子も同様に軽く応酬したが、二人の搓りを前に戻そうとする風では少しもなかった。
「もっとやれやれ。」とまた由吉は面白そうに二人をあおり立てたので、論議とは違い室内は一層賑かな笑いに満ちて来た。
「どっちも誠実さが足りないぞ。」
と塩野は、前から二人の間に挟まっていたあるもどかしさを吐き出したいらしく、彼もまた元気づいた声になった。
「とにかく、諸君に心配かけて相すまないが、どうもね――このマリヤ観音は、道徳というものを知らないのだよ。」
遊部のそう云うのに由吉は隙を与えず、
「今ごろ道徳に負ける奴があるか。」と彼の顔を窺き込んだ。
「先日、あなたのあの人見てよ。」
みち子はもう他のもののことなど見向きもせず、遊部だけそこにいるような和らかな眼で彼を見詰めた。
「見たか。どこで?」
「ある所よ。――でも、あなた本当にあの人好きなの。」
「いいね。誠実さがあるよ。」
「そうかしら。あたし、あんな人に感心するなんて、少しあなたどうかしてるんだと思ったわ。」
と、みち子は顎を引き、遊部の胸のあたりに視線を落しながら、
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