でいる自分だと思った。しかし、さまざまな思想の流れの中を突き抜けて来た強靭無類なもののその美しさも、こうして胸に受ける白刃の冷たさ鋭さと映るのが――この自然に対決を迫って来て熄まぬものは何んだろう。――
明らかにただ美術として眺めていられぬものが、この科学寺のどの一枚の写真の陰影の中からも射していた。またそれは、幾度となく世界を覆していってまだ熄みそうにもない不思議なものだのに、それを思わぬ限りは、誰も彼もこの写真の前をただ過ぎぬけて通って行くだけだった。その無邪気さの中には、なお一層ぴちぴちと跳ね返った、哄笑するものの不思議な力が潜んでいるのだと、矢代は思った。それらの群衆の誰もは、皆ほとんど異端者ばかりだった。
「どうも写真というものは実物を考えさせて困るね。」
矢代は狂人のようにノートル・ダムを撮りつづけた塩野の熱心な姿が泛んで来て、傍の塩野にまた云った。
「少しぼかしになってるが、やはり君は考えたなア。」
「うむ、少しぼかしてみたんだ。この程度にぼかしたいと思うそこんところが、どうも難しくってね。」
「そこのところか。なるほどね。」
塩野というこの写真の達人の苦労が、カメラという科学の眼をぼかす苦しさに変ったこれが個展かと思うと、矢代には、また更まった意義深いものが生じて来て壁面を見直した。
ホールに観覧人が増して来たがみな静かだった。何かしかし矢代には見ているうちに、考えきれないものばかりを見事な統一をもって緊めているのを感じ、優れた塩野の腕前も次第によく分って来るのだった。
「やはり君は東洋の名人だね。カソリックを少しぼかして見せなければやりきれないんだから、なかなか親切な人だ。どうも有り難う。」
と矢代は礼をのべて笑った。
窓から外を見ると、日を浴びた群衆の帯が建物の切れ目いっぱいに流れつづけていた。これも異端者ばかりだった。
塩野は入って来る知人の応接に暇もなくあちらへ往ったり戻ったり絶えずした。
寺院の写真のせいかみな誰も脱帽で、外套まで脱いだ観覧人の姿がホールを美しく浄めていた。
そのとき矢代の肩に軽く手が触り、千鶴子が後から彼を呼びとめた。
「山ではありがとう。」
「やア、あのときはどうも――急に街の中へ出て来たので眩暈いがしましてね。由吉さん、どうしていられます。」
矢代がこう云っているところへ、塩野はまた寄って来て、千鶴
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