ことに変りのあろう筈はない。そのときに出会った友情の烈しさも、旅の終りとともに事なく解消出来た自然さは、企てようと努めても出来がたい弾力の美しさだったと、矢代は思う。勿論彼は、異国での友情を忘れたわけではなかった。むしろその友情の単なる思い出としてではなく高めるためにも、その間にわだかまった異国という幻影を払い清めることを芽出度しとしてこそ、以後の健康な日常の日の友情とすることが出来るように思われる。そして、たしかに矢代は、寂しいながらも今はある自由な気持ちを底の方で覚えて来るのだった。
この一見さも偽りらしいことも、帰ったそのとき直ちに気付くか気付かぬだけで、漸次にいつかは双方で気付くことである。矢代は千鶴子にもっといろいろと、こんなことに関して話したかった。が、それも他に人のいない二人きりの時を選ぶ方が良かろうとまた思い、この夜はこのまま寂しさに耐え忍んだ。
「ちかぢかまたお会いしましよう、向うのことは向うのこと、こちらのことはこちらで、それぞれ別ですからね。それや、つまるところそうなんですよ。」と矢代は千鶴子を見て、「はッはッはッ」と声を出し軽く笑った。
「天罰ね。」
と千鶴子も所在なさげに一緒に云って笑った。矢代は気軽くなったついでに、東京へ着いたその夜、千鶴子の家の前まで夢中で行ったことをつい話しそうになった。が、やはり、まだそれを云うべき自然なときにはなっていないと思い、彼は云い止まるのだった。
料亭を出てから省線の駅まで四人は歩いた。ゆるく下りになった暗い枯葉路の両側の大樹の下を、塩野と由吉とが話しながら先に立ち、少し遅れて矢代と千鶴子とが歩いていった。
顔の見えない千鶴子の襟もとから香料の匂いが掠め流れた。モンパルナスで別れた前夜、雨あがりの夜道を歩いているときにも匂った同じ香だった。
「あたしの家へも一度お遊びにいらして下さらない。汚いところですけれど。」
と千鶴子は、もう興奮のなくなった声で云ってから、二三日前の夜、まだ見たこともない矢代の母からひどく叱られた夢を見て、恐くてぶるぶる夢の中で慄えたと話した。矢代は母が千鶴子を叱っているところを想像し、そんなところも母にはたしかにあるかもしれないと思い、また今の千鶴子がカソリックのままだと、法華を信じている昔堅気の武士の娘の気性を持つ母との、折れ合えるところはどこだろうかと一寸彼は考え、い
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