ソリックの再度の繁栄の理由を、むかし殺戮された殉教者たちの、断ち切りがたい意志の招きかもしれぬと思うのだった。
「歴史は繰り返すのか、進むのか僕には分らないが、恐らく君の亡き骸の悲しみも、何かの役目を果す日の来ることを僕は希い、またそれを祈っている。日本へ帰ってからの僕の念いは、今のところ、歴史は繰り返さない、ただ進むばかりだと信じたいことだけだ。しかし、人間の腸のうねりのような歴史は、恐らく僕らの祈りなど、聞き届けてくれないことと思う。だが、何んにも僕は心配などもうしていない。僕も君も、どちらも野蛮人というような高級な感性的なものにもなれず、知性人というような、これまた同様に透明な抽象的なものでもない。それなら僕らはお互に最も底辺にいるべき人物同志であり、この底辺という富み籤を引き当てた健康なものこそ、それなればこそここに最も真理が豊かにあることを自覚すべきである。何ぜなら所詮この底辺の僕らが人の世を運ぶのだからだ。そして、僕はこの自覚から楽しく出発するつもりだ。茲《ここ》に僕らの道徳がある筈だと思う。」
矢代は久慈にそういう手紙を出してから、三日目に、突然塩野が訪ねて来た。取りつぎに出た母から名刺を手わたされたとき、「あっ」と矢代は云ってすぐ立ち上った。人が来たのではなく、パリが人の姿で不意に訪ねて来たような胸騒ぎを彼は感じ、弛んでいた帯を絞め直して玄関へ出ていった。
「やア、暫くでした。一昨日着いたんですよ。御無事でしたか。」
塩野は勢い込んだ元気な顔を上に向け、両足を揃えた正しい姿勢で矢代に云った。
矢代は塩野を応接室に上げてから、そこでまた一別以来の挨拶をした。どちらもパリにいるときは敬語を使わなかったのに、このときは妙に固くなり、互に初めて会うような鄭重な言葉が自然に出た。矢代はそれを崩すのも却ってぎこちなくなりそうで、溢れて来る感動も礼儀のために絞めくくられ、ともすると無感動な静かな表情になるのだった。
「しかしとにかくまたお会い出来て、良かったなア。」
と何んとなく嬉しさに疲れ、二人が黙ってしまったとき、矢代はふとそう呟くように云った。窓からぼんやり庭の石榴を見ていた塩野は、云いたいのは自分もそれだと云いたいらしく、「うむ。」と頷いた。まったくどちらもここにこうして再び対き合っているという事実が、今は不思議な気のする一刻だった。またたしかに
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