外人たちの顔もどれもみな鬱陶しく見え、ふと身体を動かすときにも、心の頼りになるのはこの椅子だけかと思ったりするのだった。それでもどうかした拍子に花嫁になろうとしている真紀子の、どこかの一点が突然美しく見えて来ると、行手に光りのさし始めたように心を躍らし、今のはあれは何んだったのだろうと、暫くは頭に残った印象を追ったりした。その度びに、
「まだ俺は美しさが好きなんだ。こんなに美しさが好きなところを見ると、まだ俺は外道なんだ。」とこう思い、そろそろ夜に入ろうとしている自分の変化を感じて来るのだった。
「ね、君。」と久慈は矢代の方を向いて云った。「僕はこのごろときどき思うんだが、近代人の求めている意志というものは美でもなければ真でもない、そうかといって善でもない、あるその他の何ものかだと思うんだが、どうかね君は。」
「じゃ、何んだ、悪か。」
と矢代は事もなげに云ってのけた。久慈は我が意を得たという風に眼を輝かせた。
「そうだ、どうも悪に近いが悪じゃない。例えばこの電気を見たまえ。僕らの求めている電気に似たような、そんな精神は言葉にはまだ無いのだ。だから、たった一つの言葉を誰かが発明すれば助かるのだよ。それがないのだなア。」
と久慈はぼんやりと電灯の光りを仰いで云った。
「愛とか智とかあるじゃないか。あんまり沢山ありすぎて、みんな馬鹿になってるのだよ。こんなにあっちゃまごまごして、何を拾ったらいいのか知らんのさ。遣欧使の堕落だよ。」
「いや、違う、一番肝腎のものがたった一つないのだ。それでみんな屑拾いになったんだ。電気を見てるとどうもそう思う。だいいち、これは物理学でもなければ化学でもないからな。そのも一つ向うの悪の華みたいなものだ。こうなれば、一切の言葉が無になったと同様だよ。」
云い出せばまたきりもなく話し出し、争い出すのを感じて二人は黙った。千鶴子はその隙を見て一同に散歩をしようとすすめて立った。
「言葉が無になったら歩くに限る。」
と矢代も笑いながら千鶴子の後につづいてカフェーから出ていった。前からの様子で久慈は、昨夜から今朝へかけて二度も千鶴子と会った自分を、まだ矢代は知っていないのだと、問わず語らず勘づいていたが、今はそれを云うべき時期でもないと思い、ただ一人それを知って黙っている千鶴子の巧みな装いに応じつつ、こちらも知らぬげにこうして歩いてゆくのは、秘
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