もむろな姿をとって動かなかった。女神に添えて噴水がまた八方から昇っていた。それはこの広場を鏤ばめた宝玉となり植物となって、夜のパリの絢爛たる技術を象徴してあまりあった。
「何んで凄い景色だろう。」と久慈は茫然と立ち尽して云った。「これから見れば、東京のあの醜態は何事だ。僕はもう舌を噛みたくなるばかりだ。」
東野は黙って広場を眺めながらまた俳句を作っていた。突き立っている三人の暗黙のうちにひしめき合う頭を、千鶴子はもう感じたと見え一人放れて歩いた。
「さア、行きましょうよ。」
「君は何んでも、さア行きましようだ。」
と久慈は腹立たしそうに云った。
「でもそうだわ。」
「何がそうです。」
「あたし、もう眠いんですもの。」
「眠る方がいいですよ。さア行きましょう。」
と東野は云って歩き出した。一同は東野の後からぞろぞろついていった。しかし、久慈だけは手に引っ掴んだ帽子を自棄に振り振り駄駄っ子のような声で、
「もう、僕は日本へは帰らん。」と云った。
「二十年ここを見ていると、小便をここへしたくなるそうだよ。」と矢代は云った。
「ふん、そ奴は猫だろう。」
「僕が東京市長なら、東海道の松の大木を銀座の真中から、神田までぶっ通してずっと植えるね。あの通りに松葉が散ればどんなに綺麗か分らないよ。雄松だけは外国にはないからな。」
矢代はそう云いながらも東にチュイレリーの宮殿を置き、西はサンゼリゼの大公園に接し、北にはマデレエヌの大寺院、南に河を対してナポレオンの墓場を置いたこのコンコルドの広場の美しさには、流石云うべき言葉も出なかった。
「ここが、世界の文化の中心の、そのまた中心なんだからなア。」
と久慈は讃嘆しつつ倦かず周囲の壮麗さを眺めていた。
「何もそう早く音を上げなくたって良いだろう。こうなれや、周章てた奴は損だ。東野さん、句は出来ましたか。」
「出来た。」
一同は車を拾い、疲れてぐったりとしてホテルの方へ帰っていった。
矢代は千鶴子へ電話をかけてもときどきいないことが多くなった。女の本能でモンパルナスよりサンゼリゼを好むのは無理ならぬことだったが、しかし、逢う度びに千鶴子の話は今までの彼女とは変って来た。ある日、矢代は千鶴子とルクサンブールを歩いていたとき、千鶴子は楽しそうにパリの上流階級のサロンの話をした。千鶴子が自分たちより後から来たのに何人も出入困難
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