洋の面面へも迫って来たのである。他人事ではないときに、他人事を憂えるに似た観念の弱さを感じる反撥も手伝い、これを自分の強さに変じる作用あってこそと覚悟する、別の気力も、またそのうち一同の中から燃えて来た。
「戦争は何も、地震のように突然起って来た偶然のことじゃない、拡って来た人事で必然だ。そんなら、ヒューマニズムにつながる根本のものじゃないか。文化人として、今こそやらずにどうする。」
こういう文学者も一人出て来た。
「しかし、ヒューマニズムは、ルネッサンスの人本主義から出て来ているものだからね。それからやるとなると大変だよ。」
何も云いたがろうとしない哲学者は、そう云ってまた黙った。
「解釈はどうだっていいよ。ヒューマニズムの心情だ。われわれの心だ。心をそのまま抛ったらかして、狼狽えるわけにはいくまいじゃないか。」
「戦争が起れば、誰も彼も自分の意志ばかりで物を云おうとするからね、意志ばかりで云っちゃ、戦争は負けだよ。冷然とした判断力が何よりだ。」
と、このとき横からこう云い出したのは、隅の壁にもたれかかり、今まで黙っていた科学者だった。
「意志で云わなくちゃ、何んで云うのだ。」
憂いを共にしている一団ながらも、その中から急に寛いだ笑いが立った。
「おい速記たのむよ。座談会そこから始める。」と司会者はまた機を捉えて催促した。
しかし、速記が始まると、さすがに誰も開こうとするものがなく、そこから再び会は頓挫した。矢代はこの頓挫でほっとした。何を云おうと今は無駄だと思ったからだった。出て来る料理につれてしばらく雑談がまだつづいたが、そのうちにこの夜は騒ぎもなく早い散会になった。大玄関から闇の中へ散り出ていく肩口も、平和な日の会合はこれで最後だと思う、名残り惜しげな姿もあり、出る膿なら踏み潰せ、と云いたげな軒昂な肩も見えた。しかし、どのようなことがあろうと、今日はふたたび昨日には戻らぬ訣別の面影ただよう背に、それぞれ灯火をうけた恭倹な帰りとなって散り行くのだった。
燃えるようなカンナの花茎に黒くまつわりのぼる蟻が見られた。真夏が烈しい暑さで迫って来ても、戦いはやはりつづいた。それは締めくくろうとする緊張した力の闇から、めり出す風にのび拡がり、やがて動員令が出た。新しく編成された軍隊の動きが活溌になっていくにつれて、炎天に振られる旗の数が街から街へ急激に増して
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