日日のように思われて来るのだった。それは実に間のぬけた、迂濶な生活のように思われて残念だった。
「ともかく、まア、行きなさい。どこにいようと同じだよ。」
 と狩衣姿が云う。
「それはそうだとしても、他に面白いことといって、ありません。」
「そういうたものでもないさ。」
 山は黙ってそのときちょっと京都の空の方を見たように思った。矢代は、その山のいつも見て暮していたのは、やはり先祖の故郷のあるその視線の方向だったのかと思い、つい自分も見た。
「俺はここで死んだが、なに、これは一寸、休ませてもらっただけだったよ。」
 こういうようにも見える山は、少し多弁になりかかろうとして、にこにこッとすると、またどういうものか口を閉じ、
「さア、もう行きなさい。」
 と顎で彼を押す風だった。
 矢代はまだ去りがたく足も鈍ったまま車に乗った。日はもう没していて、揺れ変って来た芒の葉の向うから生温い夜風が吹いていた。そして、蛙の鳴く声が次第に高く路の両側から起って来て、そこをすたすた急いで走る車夫の足音も冴えて来たが、まだ彼は帽子をとり車の上から振り返っては幾度もお辞儀をしつづけた。

 その夜、京都へ向う夜行にやっと矢代は間に合った。来るときもそうだったが、帰るときも危いところを狂いなかったそれだけにまた、彼は充実したものを持ち過ぎて来たようで、寝台のない車中では容易に眠られそうにもなかった。そして、京都で千鶴子と会ったとき、郷里の模様を多少は変形させて話さねばならぬ面倒さについても考えたりするのだった。もし千鶴子に、心中去来した郷里の思いをそのまま話す場合、結納まですませたときとしても、この結婚は愉快さを失うものを含んでいたからだった。実際、まだ二人の間には、踏み心地に形のつかぬもどかしいもののつき纏う感じがあった。二人の周囲の誰も結婚を赦しているときに、このたびは矢代自身の裡から膨脹する不安を覚えて、それを今ごろ揉み消すことに気を使う夜汽車だった。
 こんな不安の原因は、矢代の見て来た先祖の城を滅ぼしたものが宗麟で、彼の信じたカソリックを、千鶴子もともに信仰しているという、ただ単なるそのような遠い過去の敵意の仕業では、無論なかった。先祖のそんな悲劇に関しては、怖るべきはその偶然だけであって、それも二人の間で整理をつけてしまっている筈だった。
 しかし、それでも、二人の間にはまだそれ
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