われた柱の木理も枯れ渋った隙を見せ、山道の嫩葉に触れた門から中の方に、白藤の風に靡くのが一本、静に過ぎる晩春の呼吸をしていた。
「まア、ようお帰り下さいました。さアさアどうぞ。」
 見たこともない寺の主婦は、気軽く彼を方丈へ上げた。矢代は寺への挨拶というものをこれまでにまだ経験したことのない旅客だと自分を思った。
「もっとお早うにお着きになることと思うてましたが、――まア、こんなむさ苦しいところで。」
 帰るべきものが帰って来たという鄭重さの籠った寺の主婦に対い、まだ矢代は、携えて来た父の骨箱の背後に隠れるような、なじみの移らぬお辞儀で、日に灼けた畳の膨みや仏壇のある本堂への通路を見た。
「どうもながらく父もわたしも、御無沙汰いたしておりまして相すみません。」
 父子二代がかりの彼の挨拶も、寺の主婦の円い笑顔を通して、本堂の仏壇へ云い詫びる気持ちの方が強かった。またさらにその仏壇の奥ふかく連った今さき降りて来たばかりの背後の城山に対って、頭を下げたい思いも深まって来るのだった。寺は裏の城山がカソリックのフランシスコ宗麟に踏み滅ぼされたのと一緒に、焼き払われ、時を見て再び建った諸寺のうち、今も残っている唯一の古寺であった。
「和尚さん今日は御在宅でしようか。」
 矢代の問いかける間もなく、急に表情を沈めた主婦は、揃えた手もとへ視線を落した。
「それが今日は命日でございまして、――あの去年主人が亡くなったんでございますよ。それでお客が今、奥に来ていて下さいますので、ごたごたいたしておりまして。」
「御命日ですか、今日は。」
 ここの和尚も矢代は見たことがなかった。主のない寺へあらためて挨拶するのにも、日の射している座敷の隅隅から、彼は自然にまだ見ぬその人を感じたい注意になった。客を両手にひかえた多忙な主婦は、中腰に奥の間へ消えたその後から、まだ中学を出たばかりの青年が一人出て来た。黒い僧服の下からきりりと締った白衣の裾の見える姿で悧発な眼鼻立ちも美しかったが、矢代への挨拶も固苦しく、押し黙ったままひょこりとお辞儀をするだけだった。
「この子が今の代になりましたので、どうぞ宜敷くお願いいたします。」
 黙り通している子の傍から母親は紹介をかね、そう云い添えて、矢代をまた奥の間へ導かせた。
 先客は二人でいずれも僧服を纏っていた。躑躅の花の攻めよせ合った奥庭を背にして、一人
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