る時の迅さを感じ、父の仕事のすべても、こうして自分を運ぶものに変えられているのが、暫くは何んとも奇妙な有り難さとなり、湖の水色も巻きこめた澄み細まった気持ちともなって、空明りの射して来るまで彼は呼吸を忍ばせた。間もなく、山科の平野は雲に蔽われた牛尾山の裾から開けて来た。彼は水車の雫の飛び散る川添いの垣根に、赭茶けて崩れた泰山木の大きな弁を眼にすると、父の骨箱をスーツに入れた。
 昨夜は雨と見えて京都の街の瓦はまだ濡れていた。矢代が京都ホテルに着いてから名簿を見ると、千鶴子たち一行はもう着いていた。矢代は朝も早すぎたので誰にも会わず、すぐ自分の部屋で湯に入った。そして、少し寝不足を補ってから十時ごろまた起きた。出来れば彼は午前中に納骨を済ませたいと思った。
 矢代が下のロビーへ降りて行ったとき由吉と千鶴子、槙三の三人は茶を飲んでいた。退屈そうにパイプを啣えている旅馴れた由吉の傍で、下唇の赧い槙三は、制服のまま人の好い微笑を泛べて黙っていた。千鶴子はエレベーターを出て来た矢代を見かけると、小腰を浮かせ片手を上げて笑った。矢代は寝不足の恢復で卓上の紅茶の湯気が新鮮に見え、折よく霽れて来たことを口にするのも実感が籠った。彼は槙三と会うのが久しぶりで特に彼の微笑した眼差が懐しかった。昨日は伊勢から長谷寺へより、奈良から夜遅くこのホテルへ着いたことなども、彼の話から推測するのだった。
「どこがお好きでした。」と矢代は槙三に訊ねた。
「伊勢でしたね。タウトを読んだせいか、内宮は立派だと思いました。」
 黙っているくせに、話すとはきはき発音する槙三の態度を、いつものように矢代は好もしく感じた。殊に数学を専門にする槙三のような学生が、大廟に参拝して来て感動を顕わすのを見るのは、杉の葉の匂いに拭き洗われて来た体を見るようで、一層この午前が爽やかだった。紅茶の間、今日の行くべき所を四人で相談した。由吉は案内役の知人が正午前に来ると云うので、昼食時の落ち合う場所を定め、矢代はそれまでに西大谷の納骨をすませる予定を話すと、千鶴子も一緒にそちらへ廻りたい旨申し出てくれた。槙三は午前中は博物館を見たいと云うことだった。自然、矢代、千鶴子、槙三の三人が同じ方向になった。
 由吉と別れて三人が自動車に乗ってから、骨箱を膝にした矢代の両側で、暫く千鶴子たち兄妹は黙っていた。矢代は三人が結納のためいつか
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