りの籠った優美な言葉をいうものが、どうして「我」をこの場合に、キリスト自身の意味として、そんなに人を殺していく発音に昂めさせることだろうか。
矢代はまたさっき見降した女中の手の赤味を思い出した。手を使え、正しく使え、日に輝いた無数の泡の中で、そのときどきに随って手を動かせ。不浄なものを洗い浄めよ。
こういう日光の中の訓えが、今矢代に降りかかって来ているように考えられた。彼は暗怪な僧侶どもの手の中から千鶴子を救い出したくてならなかった。彼は鱗を逆立てるように獲物を見据えているうちに、自分の体中に含められている剣が、次第にせり上り、口から噴き出てゆきそうな身顫いを感じるのだった。
「僕はこの手紙をこうして書いておりますが、あなたの悲しげな顔が泛びます。今僕は、眼に見えた物象の中で、直接これがこの瞬間の、僕の神だなと感じたものは、太陽の光でした。そして、これ以上の真実はこの瞬間にはありません。またこの光は、僕にとりまして、たしかに僕の光です。僕がここにこうしていて、他のどこにもいないのですから、僕もあなたとは光のために、いろいろと楽しい生活をさせて貰いました。何んと楽しいことが多かったか今にして思います。僕は古代人のように、自分のおん神に感謝します。こう云いますと、お前は世界の光を知らぬのだと笑う顔も、必ずあります。ところが、どこの世界へ行きましても、僕らにふりかかって来た光は、僕らという物があって、そして光るのでした。これはあなたと僕の重要な実験済みのことでした。これを感じることもなく、光こそは世界のどこのものでもない共通のものだと思うのは、これほど正しく見える幻影がありましょうか。自分のいない所の光などを、光と思い得られる激しい幻影というものは、西洋には誰にも古来からあるものです。そして、皆そのままに信じ消えうせてしまいました。いったい、この美しい魔法の種は何んでしょうか。――僕は一見誰が見ても愚かな詭弁だと思われそうな、こんなことなどを書くに就きましても、前には、光の原理や色彩というような、光そのものの中に七色があるというニュートンの抽象的な光や、いや、光は、光あるものに出あって光るというゲーテとの、難かしい例の二人の論争的研究や、ギリシア以来のそれらに関する、歴史的研究などというものも、ともに多少は眼を通してから後の、この手紙です。光に関しましては、僕は、ゲ
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