カソリックの用いた大砲に滅ぼされた僕の先祖の城を見て下さる日のあることを想像し、そのときのあなたの悲しみ――あなたの子供の先祖の荒廃した城あとを、御覧になる日のことを思い描き、やはりこれだけは隠すべきことではないと決心いたしました。よしたといこのことが、どんなにあなたの胸を衝く結果になったとしましても――一度は正視すべき要のあるひそやかな惧れを、今のうちにあなたと共に切開して置きたいと思います。しかし、僕としましては、このカソリックに感謝すべきことが少くありません。第一に、僕の先祖の城が、日本で最初に用いられた大砲のために滅ぼされてみたということです。この犠牲は、他のいかなることよりも、なくてはならぬ重大必要な犠牲でした。今はも早や、どの人人の脳中からも消え去ってしまっている貧寒な犠牲でありますが、しかし、これほど近代の日本にとって緊要な犠牲があったでしょうか。火薬の爆発力を初めて感じた瞬間の壊滅の中には、世界を変形しゆく何ものか見えざる意志の秘密を、誰より先に感知した叫びが籠っていた筈です。この最初に大音響の発声された地が、僕の家の城砦だったという偶然は、これを僕はただの偶然事として見るほど、先祖を侮辱する気持ちにはなれぬのです。これを子孫が栄光と感じるのは、敗北を喜ぶ僕の感情とも見えますが、しかし、僕らの国の中で起った敗北は、すべて敗北にはならず、散華に変じるという奕奕たるわが国の特殊性を感じましたのは、何んといっても、僕の外国旅行の賜物だったと思います。そして、このようなことをもし負け惜しみとあなたが解されますなら、僕には、自分の国の美しさが分らなくなるのです。またあなたと結ばれようとする僕たち現在の運命の慶びも。――僕は一日も早く、もう姿を消しかけている僕の家の城砦にあなたとともに登り、雑草の中に伏して、あのパリの杜の中でのように土の匂いを嗅いでみたいと思います。」
千鶴子に与える恐怖を和げる気持ちも手伝ったとはいえ、矢代は、そのために偽りなく大胆になり得られたことを今は喜び、幾度も読返してその手紙を出すことにした。
千鶴子からの手紙は一週間も隔いて届いた。それは矢代が予想した慶びよりも、むしろ煩悶し、恐怖した心情のさまの露わに窺える手紙だった。彼の手紙を見た暫くは、自分にこの結婚の資格のないことを初めて自覚した苦しみが述べてあり、今もそれが取りきれず
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