ないのが、今さら突然に悲しくなった。私の子供は何も知らずに今こんなことを私の前でしているのだが、知らずにしているということが、一番したことになっているのだ。私のは知りもしなければ、為もしなかった。これが一層痛く胸を打って来て、こ奴はおれよりも見どころのある奴だと私は思った。実際、私は論にもならぬことに感服しているらしい。とはいえ、父、子、孫、という三代には、自らそれ相当の行為の転調というものがあるものだ。人は三代より直接見ることは出来ないばかりか、それも五十にならねば分らぬことがいろいろある。年寄りじみたことながらも、これで年代の相違ということは年とともに私には面白くなって来る。
「ああ早く、ピアノ弾きたいなア。」
 と子供はそんなことを仰向きに倒れてまだ云っている。
「明日東京へ行ったらいい。」
「ほんと。嬉しいなア。ああ嬉し。」子供は蒲団を頭からひっ冠り、すぐまたぬッと頭を出すと、
「お母アさん、パパ東京へ明日行けって、いい、行っても?」まるでまだ子供だ。
 私の十九のときは、私もその年初めて東京へ出て来たのだが、父にはそれまでひと言も行きたい学校さえ話さず、父からも聞きもしなかっ
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