開け放された戸口からは粉が吹き散って白くあたりの樹の幹で廻っている。
十月――日
ここから三里ばかり離れた京田という村で、代用教員をしている私の長男は、正教員が復員で帰って来たので解雇された。生徒たちは別れに、
「先生、東京へ帰るのか。もうちっといてくれエ。ぼた餅やるよう。」と云ったという。
十九で人生の悲しさを知った長男は、鼻緒を切らした足駄で、真暗な泥路を夜遅く帰って来てから、初めて月給を貰い、すぐ馘《くび》になった渋い辛さの表現の仕様がないらしい。
「悲しいかい。やっぱり。」と私は訊ねて笑った。
「そうだね、生徒と別れるのは、何んだか悲しいなア。教員室はいやだけど。」
「ちょっと、月給袋を見せた。」
羞《はずか》しがって隠していた状袋を私は開くと、巻いた袋の重い底がずるずる下へ垂れてきて、中からしかつめらしい紙幣が出て来た。七十円ばかり入っている。
「沢山あるんだね。なかなか。」
「そう、宿直手当もあるんだよ。月給だけだと三十五円だけど。」
私は自分がある大学の教師をしていたとき、月給四十二円を貰った最初の日の貴重な瞬間のことを思い出した。あのときは、月給というものは
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