たらしい様子である。私のところへ来る青年の中にも二人ばかり、桜沢氏のもとへ出入りしていたものもあったが、ある日、太平洋戦争になったころその中の一人のA君が来て云うには、
「今度の戦争はどうしても敗ける、米に出ていると、桜沢氏がいうのですよ。大変だと思って、私はもう蒼くなってしまった。どうしたら良いでしょう。本当でしょうかね。」
 私は答えなかった。米から判断した思想というものは窺い知れざる奥ぶかく物凄いものがある。幾千年も食いつづけて来た物の中から、未来の姿の何らかを読みとどけることも出来ぬ眼力というのは、何かもう不足なもののあることぐらい気が附くべきときだ。と、私は自分のことを思って黙っていた。しかし、気がついたところで仕方がない。後の祭りだ。
「勝とうと思うな。負けないように気をつけよ。」と云ったのは兼好法師だが、これは五百年も前のことだ。それにしても、このAという青年は、それ以来住所不定となって全国をふらふらさ迷うようになり、ときどき意外なところがら風のような葉書をぽつりとくれるようになったりした。

 外国から帰って来たとき、下関から上陸して、ずっと本州を汽車で縦断し、東京から
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