影がただ一つ動いて来る。多分あれだろうと見ながら距離を縮めて行くうち、向うもそうだろうと思う風で近よって来る。見わたす広い平野の中で、自分に食わせる食物をせっせと探してくれている一人の人間が、あれかと思う。無能な自分と一緒に生活したのが彼女の運のつきだ。向うも一人、こちらも一人でだんだん照れた表情がはっきりして来たとき、ちょうど木橋の上でばったり会った。
「そうだと思ったわ。ふふふ。」
 風呂敷の端から南瓜の肌をはみ出させて妻が笑う。川の水が二人の足下を流れている。二十年も前のある日、まだ結婚もしていなかったときのこと、こんなことが一度あったようにふと思ったが、どちらも焔に追いまくられ、もうひどく疲れている二人になった。

 九月――日
 燐光のように鋭く黄色に光る黒猫の眼。人のいない部屋の蝿の群り飛ぶ中でひっそりと鳴る柱時計。翳《かげ》ったり射したりする日光。格子の間から並べた南瓜の朱に射しこむ光線。風がぴたりと停まるたびに、炉にかかった薬鑵が妙に鳴り出しては沸いてくる。

 村では、ある家の稲の早い田を共同で借り、稲刈を共同でして、自分の田の稲刈までの食い量に当てるため、今日からそ
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