匂いがぷんとするのでよく見ると看護婦部屋だったらしい。婦人の好きそうな覚悟を定めた和歌二三首が短冊で壁に貼ってある。妻がすぐ湯舟へ降りて行った間、服を脱ぐのも面倒でひとり火鉢に手を焙《あぶ》っていると、そこへもう電話があった。座談会をこれからすぐやるので是非出てくれとの文化部からの交渉である。宿へ坐ってからまだ十分もたっていないのに忽ちこれだ。佐々木邦氏が見えているので是非とのことだが、この今の場合のおつき合いは苦しく、夫婦揃って初めての夕食さえ出来ない歎息が出る。そこへ文化部の人が直接来てまた督促が始まった。「鶏を潰したのですよ。それを御馳走しますから――もう間もなく煮えるころでしょう。ひとつ今夜は、思うこと云いたいこと、何んだって云える時代になりましたから、云いたい会というのですよ。」
「云いたいことが、あんまり云えて、何も云えないでしょう。」
 と私は苦笑した。結局、この人にその場から引き立てられ連行された。湯から上って来た妻はぼんやりと見ているだけだ。今日の昼間、子供がプラットで私を見てぼんやり立っていたのと同じ表情だ。

 この座談会ほど馬鹿げた座談会に会ったのは初めてだが、
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