打って、
「おいおい。」
跳び降りた次男は振り向いたが、そのときもう発車し始めた。
「おい。明日来るんだよ。」と私は云った。
温海行をまだ知らぬ次男は何のことか分らぬらしくプラットに突き立ったままこちらを見ている。混雑と汽車の音で聞えぬらしい。顔が蒼くなっている。
「来るんだよ明日。」
またそう云っても一層子供には聞えぬ風で、汽車は離れていった。
温海へ着いたのは五時すぎだった。バスはどれも満員でやっと来たのは故障だ。雨の中をまた二人で歩いて滝の屋まで行った。もう真暗だった。この宿屋は戦前私たちは毎夏来たのだがそれから十年もたっている。私はこの温泉が好きで何度も書いたことがあるのに一度も名を入れたことがない。戦争で定めし荒れたことだろうと思っていたが、今さきまで海軍の傷病兵の宿舎にあてられて満員だったのが、今朝から開放されて空だということであった。部屋も川添いの良い部屋があてられた。
「あなたさん方が初めてのお客さんですよ。運の良いお方です。」
と、主婦は云う。この主婦とも十年も見ないが一向に年とった模様はない。ともかく良かった。疲労でぐったりした上に空腹で動けない。薬品の
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