って来た。田へは殆ど出ない彼だが、何ぜだか彼も今日はにこにこ笑って這入って来る。
「芽出たいぞ、今日はうちの稲の中に鳥が巣をくっていた。卵もあったぞ。」
 稲の中に鳥が巣を作ると家運の興隆するきっかけを意味して、このあたりの農家では羨望され、餅を搗《つ》いて祝うものだとの事だ。夜も参右衛門は来るものににこにこして炉端で鳥の巣の話をした。
「御苦労が報われたんでしょう。」と私の妻は云った。
「そうだと良いがの。」
「あなたの御苦労じゃありませんよ。小母さんのよ。」
「おれは苦労をかけた方かな。」
 何を云われても参右衛門は嬉しそうだった。清江はぼろぼろに歪んだ編笠の破れ目に青笹の葉をあて、繕いながら、
「まだ指さきがしびれての。真直ぐにのびないんだよ。こんなだ、ほら。」
 炉の方へ足を向けて寝ていた清江の末の子が、薪の火の舌が廻って来るたびに、眠っていてもぴりぴり足を縮めている。上機嫌のこんな一家の夜は近来ない。思わず私もその炉の傍で夜ふかしする。

 十月――日
 降ったりやんだりしている天気だ。風も出て来た。およそこれほど悪天の続くところはあるものだろうか。ほんの二三分間密雲が破れて
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