「しかし、あれを辛抱し通せるような人なら、女としてはまア八十点だ。」
「でも、そんなことぐらい……」
「お前は亭主を尻にしく傾向があるから、ひょっとすると出来るかもしれないなア。しかし、男にとって何が辛いと云って、阿母《おふくろ》と細君とに啀《いが》み合われるほど辛いことはないものだ。あれは鋸の歯の間で寝ているようなものだよ。お前の苦労なんてものは、僕が毎日傍にいることぐらいなもんじゃないか。」
「ほんと、あたしはあなたがどこかへお勤めしていて下されば、どんなにいいかしらと思うわ。もう毎日毎日、傍にいられる苦労には、あたし、それを思うと、もうぞっとしてくるの。疲れるのよそれはそれは。」妻のいつもの歎きが始まったのだ。
ここから見える隣家の宗左衛門のあばの家では、長男が結婚した翌日出征して、嫁が義母と一緒に今もいるが、夫婦はただの一日一緒にいたきりである。私の妻も同時にそれを思い出したと見えて、
「あそこでは、たった一日よ御一緒。どうでしょう。」と一寸首を縮めて私を見た。
私は戦争中のある日、銀座のある洋食店で夕食を摂ろうとして、料理の出るまで一人ぼんやり壁を見ていたひとときの事を
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