ふ人々を打ち叩いて罵り合つた。
「ガルタンを滅亡せしめたのは爾である。ガルタンを吾に返せ。爾のためにガルタンは滅亡した。ガルタンを吾に返せ。」
 大路の上を車輪や礫が酒甕の破片と共に飛び廻つた。が、更に怒の群れは死骸や蠢動する負傷者を蹂躙して、ドアーや窓から四方の屋内に闖入した。そこでは楽器や倒れた彫像や寝台や敷石が、飛び散る血潮のために見る/\新鮮に塗り変へられた。さうして、この狂つた憤怒の集団は、絶望に煽られたガルタンの恐怖の上を、不規則な雲のやうな形を描きつゝ、壁を突き破り石塀を乗り越えて火を待つ油のやうに益々四方へ追ひ拡がつた。それはその狂気の行く先き先きに、恰も無数の怨恨が声を潜めて地に鬱伏してゐたかのやうであつた。それは夜となく昼となく中間を空虚にして続いていつた。併し、この狂暴の最後に残つた勇者らは、その体躯を打ち衝る目あての物が、たゞ堅牢な石壁や石柱や樹木となつてゐるのに気付いたとき、彼らは蹌踉めきながら半眼を開いたまゝ、唖者のやうに黙つて終日同じ所を歩き廻つた。が、彼らの中の多くの者は、石柱や石塀に突き衝つて倒れると最早再びとは起き上つて来なかつた。ヘルモンの山上から
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