は若者の声を聞くと、矢の音を聞いた猪のように身を起した。彼の顔は赧《あか》らんだ。
「這入れ、這入れ。」しかし、彼の声はかすれていた。若者の呼び声は、長羅の部屋の前を通り越して、八尋殿《やつひろでん》へ突きあたり、そうして、再び彼の方へ戻って来た。長羅は蹌踉《よろ》めきながら杉戸の方へ近寄った。
「這入れ、這入れ。」
若者は杉戸を開けると彼を見た。
「王子よ、不弥の女を我は見た。」
「よし、水を与えよ。」
若者は馳《か》けて行き、馳けて帰った。
「不弥の女は耶馬台にいる。」
長羅は※[#「怨」の「心」に代えて「皿」、第3水準1−88−72]《もい》の水を飲み干した。
「爾《なんじ》は見たか。」
「我は見た、我は耶馬台の宮へ忍び入った。」
「不弥の女は何処《いずこ》にいた。」
「不弥の女を我は見た。不弥の女は耶馬台の宮の王妃《おうひ》になった。」
長羅は激怒に圧伏されたかのように、ただ黙って慄《ふる》えながら床の上の剣《つるぎ》を指差していた。
「王子よ、耶馬台の王は戦いの準備をなした。」
「剣を拾え。」
若者は剣を長羅に与えると再びいった。
「王子よ、耶馬台の王は、奴国の宮を
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