ていた。彼《かれ》は自身《じしん》より弱者《じゃくしゃ》に対《たい》してはいくらでも自身《じしん》を犠牲《ぎせい》にすることの出来《でき》る善徳《ぜんとく》を持《も》つ代《かわ》りに、自身《じしん》よりも強者《きょうしゃ》に対《たい》しては死《し》ぬまで身《み》を引《ひ》くことの出来《でき》ない男《おとこ》である。しかもAとQとは、この二人《ふたり》の闘《たたか》いならどこまでいってもAが勝《か》ち続《つづ》けるに定《きま》っているのだ。その度《たび》にリカ子《こ》がQを軽蔑《けいべつ》するなら、――私《わたし》はリカ子《こ》をQに返《かえ》したことは彼《かれ》と彼女《かのじょ》とのためには最大《さいだい》の悪徳《あくとく》でさえあったことに気《き》がついた。私《わたし》は私《わたし》の善行《ぜんこう》だと思《おも》ってしたことが悪行《あくぎょう》に変《かわ》ったとて恐縮《きょうしゅく》する要《よう》のないこと位《くらい》は分《わか》っていても、それにしてもリカ子《こ》が急《きゅう》にこの時《とき》から嫌《きら》いになったと同時《どうじ》に、私《わたし》にはますますQが親《した》わしく
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