たし》の方《ほう》が馬鹿《ばか》な成績《せいせき》を上《あ》げているのだ。もとを洗《あら》えば私達《わたしたち》二人《ふたり》、Qと私《わたし》とは同年《どうねん》で同級《どうきゅう》で専攻科目《せんこうかもく》さえ同《おな》じだった所《ところ》へ、同《おな》じ食客《しょっかく》としてリカ子《こ》の家《いえ》の上《うえ》と下《した》とで彼女《かのじょ》を迷《まよ》わせることにかけても同様《どうよう》な注意《ちゅうい》を払《はら》っていたのだ。結晶学《けっしょうがく》の実習《じっしゅう》でダイヤモンドの標本《ひょうほん》を学校《がっこう》から持《も》って帰《かえ》り、初《はじ》めてリカ子《こ》に見《み》せたのが思《おも》えばこのリカ子《こ》のわれわれ二人《ふたり》に迷《まよ》い出《だ》した初《はじ》めであった。つまり、リカ子《こ》の人生《じんせい》はダイヤモンドから始《はじ》まったのだ。そのとき私達《わたしたち》はQの部屋《へや》で今《いま》私《わたし》が下《した》でして来《き》たダイヤモンドの結晶面《けっしょうめん》の測定《そくてい》について話《はな》していた。すると、リカ子《こ》は丁度《ちょうど》お茶《ちゃ》を持《も》って這入《はい》って来《き》ていつものように話《はな》し出《だ》し、そのダイヤモンドはどこの産《さん》かと質問《しつもん》した。所《ところ》が、私《わたし》にはそのダイヤモンドの母岩《ぼがん》との関係《かんけい》とか産出状態《さんしゅつじょうたい》とか自然性《しぜんせい》の結晶面《けっしょうめん》とかは分《わか》っていても、その少女《しょうじょ》の最《もっと》も知《し》りたい平凡《へいぼん》なことだけは分《わか》らなかった。すると、Qは実《じつ》に私《わたし》も驚歎《きょうたん》したのであるが、直《ただ》ちにそれはミナスゲラスだといい切《き》った。私《わたし》にはミナスゲラスはどこの国《くに》にあるのかさえも分《わか》らないのに、リカ子《こ》――漸《ようや》く女学校《じょがっこう》を出《で》かかった彼女《かのじょ》に、分《わか》ろう筈《はず》もないことをいうQの心理《しんり》に、初《はじ》めは私《わたし》とて驚《おどろ》かざるを得《え》ないのだが、しかし、私《わたし》の驚《おどろ》きは忽《たちま》ち彼《かれ》への尊敬《そんけい》の念《ねん》へ変《かわ
前へ
次へ
全29ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング