かわ》らずいい出《だ》したのでリカ子《こ》は困《こま》って泣《な》いているのだと思《おも》い込《こ》んだ。それで私《わたし》は直《す》ぐ何《なに》かいい訳《わけ》をしようと思《おも》い、周章《あわ》てて彼女《かのじょ》を起《おこ》そうとすると、リカ子《こ》はリカ子《こ》で私《わたし》が彼女《かのじょ》をいよいよ事実的《じじつてき》に愛《あい》し出《だ》したのだと思《おも》い込《こ》んだと見《み》えて、ますますぴったり身体《からだ》をひっつけて来《き》て放《はな》れない。すると、私《わたし》の頭《あたま》は一|層《そう》混乱《こんらん》を始《はじ》めるばかりで何《なに》が何《な》んだか分《わか》らなくなり、時間《じかん》も場所《ばしょ》も私達《わたしたち》二人《ふたり》からだんだんと退《しりぞ》いてしまったのだ。この過失《かしつ》をこれだけだとすると別《べつ》にこの場《ば》の二人《ふたり》の行為《こうい》は過失《かしつ》ではないのだが、この事件《じけん》の最《もっと》も最初《さいしょ》に、二人《ふたり》の意志《いし》とは全《まった》く関係《かんけい》のないデアテルミイの振動《しんどう》がリカ子《こ》の身体《からだ》を振動《しんどう》させていたということが、二人《ふたり》の運命《うんめい》をひき裂《さ》く原因《げんいん》となって黙々《もくもく》と横《よこ》たわっていたのである。後《あと》で気《き》づいたのだがこのラジオレーヤーと同様《どうよう》な機械《きかい》は私《わたし》がリカ子《こ》の部屋《へや》へいく前《まえ》から、リカ子《こ》は最早《もはや》いくらかの腹痛《ふくつう》を自分《じぶん》で癒《なお》すためにかけていたのだ。だから彼女《かのじょ》がその途中《とちゅう》で機械《きかい》の狂《くる》いを直《なお》そうとして私《わたし》を呼《よ》びに来《き》た時《とき》には、もう彼女《かのじょ》の身体《からだ》は十|分《ぶん》刺戟《しげき》を受《う》けて既《すで》に過失《かしつ》に侵《おか》されていたのである。しかし、私《わたし》は彼女《かのじょ》のその時《とき》の興奮《こうふん》がただ私《わたし》の為《ため》ばかりだと長《なが》い間《あいだ》思《おも》っていて、彼女《かのじょ》がその時《とき》そのようにも私《わたし》を愛《あい》した態度《たいど》の中《なか》には、機械《き
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