かと一層不安が増して来た。彼は歩きながらも、これから将来において幾度こんなことがあるかしれないのだと思うと、悲しみついでに今一度にどっと悲しみに襲われてしまいたいと思った。
梶が探し疲れて家へ戻って来ると、迷い子になった子供はゴム風船を持って一人ぼんやりと勝手元に立っていた。一同のものは何ぜだか誰も黙っていた。梶も子供の姿を見ると何も云わずにその傍を通りぬけて奥の間へ這入ろうとした。
「交番の椅子にぼんやりひとり腰かけていたんですって。早くお礼を云ってきてちょうだい」
こうしばらくして梶は芳江に注意された。しかし、梶は容易に身体が動かなかった。
「早く行ってらっしゃる方が良いですね」
と手伝いの人がまた云った。そんな事は梶とて百も承知であったが、全く空虚になっている現在の自分の楽しさを思うと、ヨーロッパ旅行の楽しさなど比較にならぬと思って恍惚《こうこつ》としているときであったから、芳江や手伝いの人の言葉が梶には鞭《むち》のように腹立たしく感じられた。
「しかし、これがわがままというのだろう」
梶は腰を重くあげて夜道を交番の方へ歩いていった。もうここの警官にだけは一生頭が上らない
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