るかもしれないと思った。しかし、梶がヨーロッパの婦人に触れなかった理由は特に妻を愛していたが故ではなかった。ただあのようなおどけたことをしている人間がいつでもそれ相当に苦心をして造った理窟《りくつ》に身を捧げているのが賛成出来なかっただけである。
「どうだ、君は日本人だというが、パリーの女は美しいだろう」
パリーで椅子を隣りにした外人が梶に訊ねたことがあったが、
「いや、日本の女はもっと綺麗《きれい》だ」と梶は答えた。
「それじゃ、踊り場へ行ったことがあるか」
「日本人は女や踊り場を好かん」
と梶は云うと、外人はびっくりしたように小首をかしげながら考えていたことがあったが、梶は今その顔をふと思い出すと突然面白くなって笑った。
「日本の女は外国の女よりもっと美しいと虚勢を張って云って来たが、どうして満洲からこっちへ這入《はい》って来ると、全く美しいのにびっくりしたね」
そう云って梶が何心なく足を組み変える拍子に、芳江の手に彼の足先きがふと触れた。初めて触れ合う皮膚であった。梶は思わず足を引いたが芳江のほッと赧らむ顔からも視線を避けて起き上ると、
「水をくれないか」と催促した。
度
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