対して、日本の左翼は自然に反そうとする運動です。日本に近ごろ二・二六事件という騒動の勃発《ぼっぱつ》したのはよく御存じのことと思いますが、あれは左翼の撲滅《ぼくめつ》運動でもなければ、資本主義の覆滅運動でもありません。ヨーロッパの植民地の圧迫が、日本の秩序にいま一重の複雑な秩序の要求を加えただけです」
ツァラアは梶の友人の通訳を聞くとただ頷《うなず》いて黙っていただけだった。文化国が相接して生活しているヨーロッパ人には、東洋の端にある日本のことなど霞《かすみ》の棚曳《たなび》いた空のように、空漠《くうばく》としたブランクの映像のまま取り残されているのだと梶は思うと、その一隅から、世界の隅隅《すみずみ》に照明を与えて人人の眼光をくらましている日本の様が、孫悟空《そんごくう》のように電光石火の早業を雲間でしているに相違ないと思われた。
「シュールリアリズムは日本では成功していますか」とまた暫《しばら》くしてツァラアは訊《たず》ねた。
「日本ではシュールリアリズムは地震だけで結構ですから、繁昌《はんじょう》しません」
こう梶は云いたかった。しかし、彼はただ駄目だと云っただけでその夜は友人
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