ルの上と云わず壁と云わず無数のアフリカ土人の黒黒とした彫刻の面が置いてあった。梶は奇怪な覆面に取り巻かれた感じで部屋の中を見廻していると、ツァラアは梶と向き合って立った。
「来客が沢山で日本のお話を聞けませなんだが、日本はどういう国ですか。僕は他の国のことならどこの国でも多少は想像がついているのだけれども、日本だけは少しも分らない」
静に低く云いながら梶を見るツァラアの眼は射るように光っていた。物云うたびに、梶は自分が日本人であることを意識せずには何事も出来ぬ気苦労をヨーロッパへ来て新しく感じたが、殊に日本をどのような国かと訊かれる質問に対してはいつも一番彼は困るのであった。しかし、それでも梶は一口で日本を巧妙に説明しなければならぬ危い橋を渡るのだ。虚心坦懐《きょしんたんかい》とは日本でこそ最も高貴な精神とされているが、ここでは最も馬鹿の見本であった。この二つの距離の間にはいったい何があるのであろうか。
「日本という国について外国の人人に知っていただきたい第一のことは、日本には地震が何より国家の外敵だということです。その外敵の侵入は歴史上に現れている限りでは二百七八十回ほどあります。
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