族のために支配されねばならなかつた。そこで、Q川の流域には、隠然たる豪族がその団結力を延ばし出した。彼らはS川のデルタの上に生活する土民の集団に対抗するため、彼らもまたQ川の河口の岩角に尖鋭な一つの城を築き上げた。
 だが、彼らは豊饒なS川の住民の生活力とその貧しい力を争ふことは出来なかつた。このため、彼らは彼らの生活力の主力を武力に向けた。
    五
 Q川とS川との水流の争闘が激しくなるに従つて、その各自の流域に築造された二つの城の争闘も激しくなつた。しかし、Q川の豪族の城が、しば/\S川の土民の城に圧迫されつゝあつたにも拘らず、川それ自身の争闘は絶えず反対の現象を示してゐた。Q川の浸蝕力は白堊紀の地層を食ひ破つて益々深刻になつていつた。S川の浸蝕力は、河口の堆積デルタが確乎とした地盤となるに従ひ、益々その力を弱めていつた。さうして、Q川はS川の支流の水を滔々と奪ひ出した。
    六
 此のSとQとの二川の争奪し合ふ現象を、絶えず眺めてゐたのは北斗であつた。だが、北斗それ自身は、遅々として天界で滅んでゐた。さうして、ペルセウスの星は、終に北斗の位置を掠奪した。新しい北斗は、再び
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