笑われた子
横光利一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)晩餐《ばんさん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三、四|寸《すん》も

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ませた[#「ませた」に傍点]
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 吉をどのような人間に仕立てるかということについて、吉の家では晩餐《ばんさん》後毎夜のように論議せられた。またその話が始った。吉は牛にやる雑炊《ぞうすい》を煮《た》きながら、ひとり柴の切れ目からぶくぶく出る泡を面白そうに眺めていた。
「やはり吉を大阪へやる方が好い。十五年も辛抱《しんぼう》したなら、暖簾《のれん》が分けてもらえるし、そうすりゃあそこだから直ぐに金も儲《もう》かるし。」
 そう父親がいうのに母親はこう言った。
「大阪は水が悪いというから駄目駄目。幾らお金を儲けても、早く死んだら何もならない。」
「百姓をさせば好い、百姓を。」
 と兄は言った。
「吉は手工《しゅこう》が甲だから信楽《しがらき》へお茶碗造りにやるといいのよ。あの職人さんほどいいお金儲けをする人はないっていうし。」
 そう口を入れたのはま
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