光つてゐる癖に傲慢な所がちつともなくて。」
「また、一枚とられるな。」
「あなた、お止しなさいよ。そこがあなたのいけない癖よ。運動なすつたいい癖が台なしだわ。」
「だつて、あまりやつつけられちや、口止めする方が安全だよ。」
「あなたは、他の女の方にお出しになる手を、あたしにまで出さうとなさるから虐めるの。あたしがあなたからお金をいただいてゐるのは、あなたの生活をただお助けしてゐるだけよ。あなたはお金を撒くことだけが、生活なの。」
「まア、云はば、君は少し野暮臭い、と云ふ方の女だよ。僕に意見をしてくれるのはありがたいが、もう少し、僕の金の撒き方に好意を見せてくれてもいい。」
「だつて、好意の見せ場が見つからないわ。あたしが一寸愛嬌を振り撒くと、また一枚と来るんでせう。それぢや出て来る愛嬌だつて溜らないわ。あたしには、あなたがお腹で、あたしの愛嬌にお点を点けていらつしやるのが分つてゐるの。これからあたしが愛嬌を振り撒いたら、あなたを馬鹿にしてゐるときだと思つてゐて頂戴。」
これが能子だ。久慈が金で創つた永遠の女性の頭だけは、いつまでたつても頭を横に振り続ける。久慈は能子に逢ふと世界が新鮮
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