ゐてくれ給へ。」
「さうすると、あたしにこんなにお金が出て来るの?」
「いや、それは君が金を馬鹿にしてゐる賃金さ。」
「だつて、あたしは、あなたがあたしにお金を下さることを馬鹿にしてゐるのよ。」
「それは勝手だ。だが、金を君にやるからと云つて、僕を馬鹿扱ひにするのは御免蒙る。」
「だけど、そんなことをなすつてゐると、今にあなたがお金のやうに見えて了ふわ。」
「つまり、人間に見えないと云ふんだな。」
「ええ、さう。あなたはお金よ。たつたそれだけ。」
「今度は化物扱ひにし出したな。」
「だつて、あなたは、それが本望なんですもの。あなたは人間の感能がお金でどこまで発達してゐるか、験べる機械のやうなものなのよ。ね、あたしはあなたに、どんな参考になつてゐるの?」
「君は、今の百貨店の売上高では、分らない。」
「ぢや、あたし、あなたにもつと勉強するやうにさせて上げるわ。そしてそのときになつたら、あたしあなたからお金をとつて、それをみんな、あたしと一緒に働いてゐる人達に振り撒くの。さうすると、品物の能率が上るでせう。そしたら、あなたがもつとお金をおとりになるでせう。そしたら、またあたしが沢山とつて、
前へ
次へ
全14ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング