るかもしれないのだから、出来るだけ大きな面積で暴れ廻って絶えず全部の者を撹乱し続けていなければならぬのだ。しかし、眠むけというものは暴れたものほど次には激しく襲われて沈められる恐れのあるもので、直ぐ暫くすると私も私が刺戟を与えて醒したものから頭を叩かれたり膝で横腹を蹴られたりして眼を醒す。醒す度にまた私は皆の身体の中でのたうち廻って沈んでしまう。そうして幾度となく私達は眠ったり醒ましたりし合っているうちに、私達の小屋の外でもそれに従って変化が着々と行われていたと見えて、いつの間にか雨もやみ、天井の崩れ落ちた壁の穴から月の光りがさし込んで蜘蛛の巣まではっきり浮き上っているのを発見した。私達は眠け醒しに戸外へ出ようとするとなかなか足が動かない。そこで腹這いになって戸外へ出ると、月の光りに打たれながら更めて山や海を眺めてみた。すると、私の傍にいた佐佐が物もいわずに私の袖をひっぱって狼狽えたように崖の中腹を指さしたので、何心なく見るとそこには細々とはしているが岩から流れ出ている水が月の光りに輝きながらかすかな音さえ立てている。水だ水だといおうとしたが声が出ない。佐佐は直ぐ崖の方へ膝をもみながら
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