の白い黴のところから菌《きのこ》が生え上っているのだから一向に水なんかありそうにも思えない。そのうちに小屋の中で塊っている者達の肌から汗がだんだん冷えて来ると着物の湿りが応えて来て皆がぶるぶる慄え出した。殊に三時過ぎの急激な秋の夜の冷えが疲労と空腹との上に加わって来たのだからもう皆は一人ずつ放れていては寒さのために立ってもいてもいられない。そこで私達は火を焚こうにも誰もマッチがないのだからどうしようもなくそれぞれ羽織を脱いで庭に敷くと真中《まんなか》に病人を坐らせ、その周りに三人の女を置いて男達はその外から手を拡げながら丁度蕗の薹のように女達を包んで互に温度を保ち合った。しかし、私達の上に新しく襲いかかって来た寒気はそれだけでは納まらずますます激しくなって来ると、やがて一団のものは歯が打ち合ってかちかちと鳴り始め、言葉がうまくいえなくなって吃りばかりになり、泣き出すものがあっても涙だけがしきりに出るだけで、ただもうびりびり、びりびりとまるで揺られる海月《くらげ》みたいに慄え続けているだけだが、そのうちに中央にいる病人だけはもう慄える力もなくなって皆の慄える中で一人じっと縮んでしまって動
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