女達も誰と誰とが自分のどの男をとっていて、自分が誰のどの男を取っていたことになっているのか分らなくなってしまっているのであろう、もうぼんやりとしているだけで私に向うの喧嘩の首尾はどうだったかと訊ねもしない。私もこんな騒動はいずれ一度は起るにちがいはないと思っていたにはいたのだから、そうびっくりもしないのだが、今頃こんな崖の上でこんなに突然降って湧いたように起ろうとは思っていなかったので、誰が誰と喧嘩をしようとそんなことなんか平気にしたところでたちまち一団の進行にかかわること重大なのだ。ところが八木と木下とは前から仲も良くない上に女のことにかけてはどっちも競争し合っていた男同志のこととて、私が仲へ這入ってとめようとしてもなかなか放れるどころではない、じっと寝ながら殴り合っている方が立って歩いて病人を背負わせられるより楽《らく》は楽なんだから、足を絡まり合せたまま休息するように殴り合うばかりである。私も二人が傷さえしなければもう出来るだけ喧嘩をさしてしまっておく方が良いのだから、二人が転げている間私も身体を休めるために二人の頭の所に腰を降ろして眺めていると、木下も八木もすっかり疲れたらしく
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