屋敷の起き上って来るまで殴らせてやると、起き上って来た屋敷は不意に軽部を殴らずに私を殴り出した。一人でも困るのに二人一緒に来られては私ももう仕方がないので床の上に倒れたまま二人のするままにさせてやったが、しかし私はさきからそれほどもいったい悪行をして来たのであろうか。私は両腕で頭をかかえてまん丸くなりながら私のしたことが二人から殴られねばならぬそれほども悪いかどうか考えた。なるほど私は事件の起り始めたときから二人にとっては意表外の行為ばかりをし続けていたにちがいない。しかし、私以外の二人も私にとっては意外なことばかりをしたではないか。だいいち私は屋敷から殴られる理由はない。たとえ私が屋敷と一緒に軽部にかからなかったからとはいえ私をもそんなときにかからせてやろうなどと思った屋敷自身が馬鹿なのだ。そう思ってはみても結局二人から、同時に殴られなかったのは屋敷だけで一番殴られるべき責任のある筈の彼が一番うまいことをしたのだから私も彼を一度殴り返すぐらいのことはしても良いのだがとにかくもうそのときはぐったり私たちは疲れていた。実際私たちのこの馬鹿馬鹿しい格闘も原因は屋敷が暗室へ這入ったことからだ
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