ではなくますます上から首を締めつけて殴り続けるのである。私はしまいに黙って他人の苦痛を傍で見ているという自身の行為が正当なものかどうかと疑い出したが、そのじっとしている私の位置から少しでも動いてどちらかへ私が荷担をすればなお私の正当さはなくなるようにも思われるのだ。それにしてもあれほど醜い顔をし続けながらまだ白状しない屋敷を思うといったい屋敷は暗室から何か確実に盗みとったのであろうかどうかと思われて、今度は屋敷の混乱している顔面の皺から彼の秘密を読みとることに苦心し始めた。彼は突っ伏しながらも時々私の顔を見るのだが彼と視線を合わす度に私は彼へだんだん勢力を与えるためにやにや軽蔑したように笑ってやると、彼もそれには参ったらしく急に奮然とし始めて軽部を上から転がそうとするのだが軽部の強いということにはどうしようもない、ただ屋敷は奮然とする度に強くどしどし殴られていくだけなのだ。しかし、私から見ていると私に笑われて奮然とするような屋敷がだいいいちもうぼろ[#「ぼろ」に傍点]を見せたので困ったどん詰りというものは人は動けば動くほどぼろ[#「ぼろ」に傍点]を出すものらしく、屋敷を見ながら笑う私も
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