に確立せんがため新しき皇妃、十八歳のマリア・ルイザを彼の敵国オーストリアから迎えた。彼女はハプスブルグ家、オーストリア神聖|羅馬《ローマ》皇帝の娘である。彼女の部屋はチュイレリーの宮殿の中で、ナポレオンの寝室の隣りに設けられた。しかし、新しきナポレオン・ボナパルトは、またこの古い宮殿の寝室の中で、彼の厖大《ぼうだい》な田虫の輪郭と格闘を続けなければならなかった。
 ナポレオンは若くして麗しいルイザを愛した。彼の前皇后ジョセフィヌはロベスピエールに殺されたボルネー伯の妻であった。彼女はナポレオンより六歳の年上で先夫の子を二人までも持っていた。今、彼はルイザを見ると、その若々しい肉体はジョゼフィヌに比べて、割られた果実のように新鮮に感じられた。だが、そのとき彼自身の年齢は最早四十一歳の坂にいた。彼は自身の頑癬を持った古々しい平民の肉体と、ルイザの若々しい十八の高貴なハプスブルグの肉体とを比べることは淋《さび》しかった。彼は絶えず、前皇后ジョセフィヌが彼から圧迫を感じたと同様に、今彼はハプスブルグの娘、ルイザから圧迫されねばならなかった。このため、彼は彼女の肉体からの圧迫を押しつけ返すために
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