は通つてやるぞ、つてそんなことも云ひましたね。」
「ふむ、さうして、それだけか、まだ何とか云はなかつたか。」
「もう覚えてはをりません。何んだかまるきり他のことを饒舌つてゐたやうですが、何のことだかよく私には分りませんでした。」
「お前は日頃通行人をあまり早くから止めると云ふ評判だが、それはどう云ふつもりかな。」
「早くとめる方が安全で良からうと思ふのです。」
「事実それだけかな。」
「はい、それだけです。」
「止《と》めることを面白いと思つたやうなことは一度もなかつたか。」
「さうでございますね、さう云はれますとそんな気も時々はございました。」
「何ぜ面白いと思ひ出したのかね。」
「それは解りません。」
「いつ頃からそんな面白味を知り始めたのか分らないか。」
「最初からのやうです。」
「矢張り面白いといつも思つてゐたのであらう。」
「そんなことはございませんよ。」
「お前は近年道路を遮断するとき、通行人とよく争ふと云ふことだがそんな覚えはあるかな。」
「はい。」
「争ふかね。」
「はい少し早い加減にとめる時よくそんなことがございます。」
「それが近年になつてひどくなつて来たと云ふこと
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