色《めいしょく》の髪に菫の花の花飾をした踊子クサンチスは、こんな死にをしたのである。
 こんな風に一刹那の軽はずみが、厳重な運命の罰を受けたのである。
 こんな風にあれ程優しい、あれ程人附合ひの好い、あれ程情の発動の劇しい、あれ程幸福のある性命が、一撃の下に滅されたのである。
 翌日飾棚の内にゐるアモレツトの小人形《こにんぎやう》が皆喪のしるしに黒い紗を纏つた。扇は皆半ば畳まれてクレポンで包まれた。オスタアドの寺祭りは中止せられた。
 指環や腕環や耳飾に嵌めてある宝石は皆光を曇らせた。
 珍奇な香水を盛つてある、細工の手の籠んだ小瓶は、皆自然に栓が抜けて、希臘《グレシア》美人の霊魂を弔ふ為めに、世に稀な薫《かをり》を立てた。アルレスのバジリカ式の寺院を象《かたど》つた、聖トロフイヌスの納骨箱でさへ黄金《こがね》の響を、微かな哭声《こくせい》にして発したのである。
 電光の如く速かに悲報が伝へられた。公爵はそれを聞いて云つた。
「ああ。可哀《かはい》い、不行儀な奴め。己はお前のお蔭で、生甲斐があるやうに思つてゐた。己の為めには時間が重苦しい歩き付きをしてならないのだが、あの女と付き合つて
前へ 次へ
全25ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
サマン アルベール の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング