らしくない方ね。わたしをそんなに見損ふなんて、あんまり残酷だわ。」
 かう云つた時、クサンチスの声は涙に咽《むせ》んでゐて、目はうるみ、胸は波を打ち、体中どこからどこまで抑制せられた感情が行き渡つてゐるのであつた。青年はあやまつて、子供を慰めるやうに慰めて、ふと饒舌《しやべ》つた無礼の詞を忘れてくれと頼んだ。そして二人は抱き合つて和睦した。
 さて青年がいつものやうに熱情を見せさうになつて来ると、女が出し抜けに、どうも余り興奮した為めか、ひどく疲れてゐるから、赦《ゆる》して貰ひたいと云つて、青年の切に願ふのを聞かずに、いつもの時刻よりずつと早く飛び出して帰つた。
 それから自分の台の上に帰つたのは翌朝であつた。
     ――――――――――――
 此頃からクサンチスは、ひどく機嫌が好くなつた。
 故郷の詩人の賞讚する、晴れた日の快活な光を、クサンチスは体中の※[#「月+奏」、第3水準1−90−48]理《きめ》から吸ひ込んだ。此頃ほど顔色が輝き、髪の毛が金色《きんしよく》に光り、体の輪廓が純粋になつてゐた事は、これまで無かつたのである。
「大した女だ」と、公爵が唱へる。
「無類だ」と、
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