想界の長老たる坪内氏が、経営する文芸協会の興行たる『故郷』の上場を何等の内論も質問もなく一令を下して直ちに禁止する如き、恰も封建時代の地頭が水呑百姓に対する待遇である。是れ併し乍ら政府が無鉄砲なのでも属僚が没分暁《わからずや》なのでも何でもなくして、社会が文人の権威を認めないからである。坪内君が世間から尊敬せらるゝのは早稲田大学の元老、文学博士であるからで、舞踊劇の作者たり文芸協会の会長たるは何等の重きをなしていないからである。
社会をして文人の権威を認めしめよ。文人は社会に対して宣戦せよ。"Murmur"するよりは"Strike"せよ、"Complain"するよりは"Curse"せよ。新らしき思想の世界を拓かんとする羊の如く山の奥に逃げ込まずに獅子の如く山の奥から飛出して咆哮せよ。
二十五ヵ年の歳月が文学をして職業として存立するを得せしめ、国家をして文学の存在を認めしむるに到ったのは無論進歩したには違いないが、世界の英雄東郷を生じた日本としては猶お余りにもどかしき感がある。今後の二十五ヵ年間、願くは更に一大飛躍あれ。文学の忠僕たる小生は切に諸君の健闘を祈る。
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