費を何年も費《つか》ひ込んだ商業学者先生達は会社か銀行の帳付《ちやうつけ》にでもなると直ぐ実業家を気取つて、極《ごく》愚劣な奴は安芸妓に陥《はま》り込んで無けなしの金を入上げる、些《ちつ》と生意気な奴は書卓《デスク》附属の器械であるのを忘れて一知半解《なまかじり》の金融論をする、少しばかりのボーナスを貰うと炭鉱とか日鉄とか直ぐ手を出したがる、事業其物に忠実なものは殆ど無い――
「カラキシ[#「カラキシ」に傍点]何も彼《か》もお咄になりませんや。我々のやうに少《ちつ》と理窟でも捻らうといふ奴は継子《まゝつこ》扱ひされてテン[#「テン」に傍点]で相手にされないのだから仕様が無いのサ。金を儲けるといふが何も難かしい事は無い。正実な道を踏んで立派に金儲けが出来る。何ツ――教へて呉れ? 教へてやらんでもない、正直に真面目に金の儲かる道はいくら[#「いくら」に傍点]もある。其内ユツクリ[#「ユツクリ」に傍点]話して聞かせやう。今の実業家連中は情ない哉22が4といふ事を御存じない。22が6と算盤《そろばん》を弾き出すから景気が好さゝうに見えても実は初めから失敗しておるンだ。何だ――解らないと。矢張君も22が6の連中だらう――はツはツはツ」と故《わざ》と磊落らしく笑ひながら口の裡《うち》にて、(実は自分にも解らない!)



底本:「日本の名随筆75 商」作品社
   1989(平成元)年1月25日第1刷発行
底本の親本:「社会百面相 上巻」岩波文庫、岩波書店
   1953(昭和28)年2月
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2006年10月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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