\に箱が開いたかと思うと咄嗟に空になった了った。
誰一人|沈《じっ》としているものは無い。腰を掛けたかと思うと立つ。甲に話しているかと思うと何時の間にか乙と談じている。一つ咄が多勢に取繰返し引繰返しされて、十人ばかりの咄を一つに纏めて組立て直さないと少しも解らなかった。一同はワヤ/\ガヤ/\して満室の空気を動揺し、半分黒焦げになったりポンプの水を被ったりした商品、歪げたり破れたりしたボール箱の一と山、半破れの椅子や腰掛、ブリキの湯沸し、セメント樽、煉瓦石、材木の端片、ビールの空壜、蜜柑の皮、紙屑、縄切れ、泥草履と、塵溜を顛覆返したように散乱ってる中を煤けた顔をした異形な扮装の店員が往ったり来たりして、次第々々に薄れ行く夕暮となった。
[#地付き、地より1字あき]――明治四十一年十二月十一日、火災の翌日記――
底本:「魯庵の明治」山口昌男、坪内祐三編、講談社文芸文庫、講談社
1997(平成9)年5月9日初版発行
底本の親本:「内田魯庵全集第六巻」ゆまに書房
1984(昭和59)年11月20日初版発行
※第3第4水準にもない「口へん+斗」は、「角川新字源改訂版」によれば、「叫の誤字」とある。
※「狼籍」は、底本、底本の親本でもともに、こう表記されている。本ファイル中では「狼籍[#ママ]」とした。底本、底本の親本ともに、一箇所だけ「狼藉」とあるところは、本ファイルでもそのままとし、特別な注記は行わなかった。
※「掘」と思われるところが、底本、底本の親本でもともに「堀」とされている。本ファイルでは「堀[#ママ]」とした。
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:斉藤省二
校正:松永正敏
2001年5月19日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全13ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
内田 魯庵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング