ゐるのは、主人公の不行跡よりは主婦の感化力の乏しいのを証拠立てる。家庭の改良といふ事に就ては種々の方法もあるが、第一には主人公の栄達の為めなり、家庭全体の昂上の為めになるのだから知識慾を増進し刺戟する最良の計画として家庭に読書室を設備するのが急務である。尤も読書室が無くとも読書の風を養ふ事は出来んでは無いが、七室も八室もある中流以上の家なら其一室を読書室とする事が出来るから、先づ此設備をするのが読書の習慣を養ふ第一の良策である。箪笥の数を一つくらゐ減らして、本箱を殖やすのを一家の誇りとしなければならぬ。一年に二度か三度しか著ないやうな著物を一枚倹約したら十冊や二十冊の書物を買ふ事は出来る。書物を買ふのを惜んだりオツクウに思つたりするやうな事では駄目だ、此の大切な頭脳を養ふ何よりも肝腎な糧である書物に金を惜むやうな国民では到底文明人とは云はれないのだ。且又児童に対しても学校の教課書以外の読書をするやうに寧ろ奨励しなければならぬのが教師なり先輩なり、第一には家庭の義務である。読書の量の程度が人間の人格の準縄の一つである。



底本:「日本の名随筆 別巻6・書斎」作品社
   1991(平
前へ 次へ
全11ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
内田 魯庵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング